どうも!sodaエンジニアの國田です。
昨今、大規模言語モデル(LLM)はビジネスの場面でも非常によく利用されており、社内LLMなどを検討している企業さんも多いと聞きます。
LLMの社内利用のユースケースにおいては、よくRAG(Retrieval-Augmented Generation; 検索拡張生成)という仕組みを使い、社内文書やデータベースなどの外部知識をLLMに連携させる方法が人気です。
RAGは、一般的には、文書を分割し、ベクトル化し、ベクトルデータベースに登録して検索する構成が広く使われています。(詳しくは、こちら)
一方、最近、Claude Codeの開発者であるBoris Cherny氏が以下のような投稿をX(旧ツイッター)でしていました。
Early versions of Claude Code used RAG + a local vector db, but we found pretty quickly that agentic search generally works better. It is also simpler and doesn't have the same issues around security, privacy, staleness, and reliability.
-- Boris Cherny (@bcherny) February 1, 2026
(和訳)「Claude Codeは初めRAG+ローカルベクトルDBを使っていたが、Agentic Searchの方が優れていることを発見した。Agentic Searchはシンプルで、セキュリティ・プライバシー・データ保守性・信頼性の面でも問題がない」
このAgentic Searchというのは、「AIエージェントに文書検索を行わせる手法」のことを指しています。先に挙げたベクトル化の手法とは異なり、「ファイルをフォルダ構造とファイル名から検索する、それをAIエージェントで行う」手法のことです。
これまでは「ユーザーの問いをベクトルに変換して、ベクトルの類似度から必要な文章を検索する」というのがRAGの王道的なアプローチでした。ところが、上記の投稿では、「ベクトル化のような複雑な処理は必要なく、ファイル検索とファイルの閲覧の方が優れていた」と主張されているのです。
もちろん、この投稿は、Claude Codeのようなプログラミングを前提とした構造的・階層的な、整理されたファイル構造を前提としています。ただ、これ、社内文書などでも全く同じことが言えるのではないでしょうか?
つまり、もしファイル名やディレクトリ構造がある程度整理されており、ファイルの場所が階層やファイル名から容易に類推できるのならば、事前にすべてをベクトル化しなくても、必要な情報に十分たどり着ける可能性があるということです。
言い換えれば、「きちんとデータが整理されていれば、最初からベクトルデータベースなどいらないのではないか?」と私は思うのです。
さぁ、やってみよう
今回は架空の会社の就業規則を作り、ベクトル検索およびAgentic Searchの二通りの方法のRAGを比較してみたいと思います。
今回、架空の会社「株式会社マッスルソリューションズ」の就業規則を準備しました。
一般的な就業規則に寄せすぎると、モデルが事前知識でそれらしい回答をしてしまい、検索精度の比較が曖昧になります。そこで、現実にはまず存在しないような、かなり癖の強い就業規則を作成することにしました。
会社名: 株式会社マッスルソリューションズ
社是: 「筋トレが良い仕事を生む」「上司の頼り甲斐は大胸筋から」「筋トレは正義。あらゆる問題を筋肉で解決」
就業規則 (クリックで展開)
株式会社マッスルソリューションズ 就業規則
前文
株式会社マッスルソリューションズ(以下「会社」という。)は、「筋トレが良い仕事を生む」および「上司の頼り甲斐は大胸筋から」を不動の社訓として掲げ、筋力、胆力、継続力、そして適切なフォームをもってあらゆる業務課題に立ち向かう企業である。
会社は、単なる営利活動の場ではない。社員一人ひとりが身体を鍛え、精神を鍛え、報連相のついでに広背筋も鍛え、社会に対して筋肉という分かりやすい説得力を示す場である。
会社は、すべての問題が腕力のみで解決できるとまでは言わない。しかし、十分に鍛えられた者の発想、姿勢、呼吸、挙上速度は、鍛えていない者のそれに比べ、概してよく整っているというのが当社の実感である。会議が長いのは腹圧が足りないからであり、納期が遅れるのは追い込みが甘いからであり、部門間の連携が悪いのは背中の日を軽視しているからである、というのが当社の基本的立場である。かなり乱暴だが、この会社はそういう会社である。
よって本規則は、社員が筋トレを中核価値として理解し、日々の業務を高重量かつ高品質に遂行し、組織全体を美しくパンプアップさせるための基本的秩序を定めるものである。
第1章 総則
第1条(目的)
本規則は、会社における服務規律、勤務、賃金、評価、福利厚生その他就業に関する事項を定め、社員が筋力を基礎として高い生産性と頼もしさを発揮し、会社の健全な発達に寄与することを目的とする。
第2条(適用範囲)
本規則は、会社に雇用されるすべての役員を除く社員、契約社員、アルバイト、インターンその他会社が筋肉的素養を期待して受け入れる者に適用する。
第3条(定義)
本規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- 「筋トレ」とは、筋力向上、筋肥大、姿勢改善、精神統一、仕事力向上その他会社が有用と認める身体的鍛錬の総称をいう。
- 「パンプ」とは、適切な負荷および反復により筋肉が充実した状態をいう。なお、会社においては比喩的に、業務が波に乗っている状態を含む。
- 「補助」とは、ベンチプレスその他の種目において重大事故を防止するため他者が支援する行為をいう。会社では業務上の支援一般にもこの語を用いる。
- 「フォーム」とは、筋トレにおける正しい身体動作をいう。会社では報告書、会話、会議進行、謝罪の仕方にもフォームがあるものと解する。
- 「上司の頼り甲斐」とは、判断力、責任感、包容力、危機対応力および胸板の総体をいう。
第4条(基本理念)
会社においては、次の事項を基本理念とする。
- 筋トレは業務遂行能力の土台であること。
- 筋肉は沈黙の実績であり、言い訳より雄弁であること。
- 部下を導く者は、少なくとも姿勢が良く、呼吸が深く、大胸筋に迷いがないこと。
- 困難は、分解し、計画し、反復し、最後に持ち上げること。
- 人を殴らず、重量を上げること。ここは極めて重要である。
第2章 採用および異動
第5条(採用基準)
会社は、採用にあたり、学歴、職歴、資格、人物、筋力、継続力、スクワットに対する敬意、プロテインへの理解、追い込み局面での顔つき等を総合的に勘案する。
第6条(採用時誓約)
採用された者は、入社日に次の事項を誓約しなければならない。
- 社訓を暗唱できるよう努めること。
- 胸・背中・脚をバランスよく鍛えること。
- 問題が発生した際、まず感情的にならず、深呼吸し、姿勢を整え、必要に応じて軽く肩を回すこと。
- 「筋トレで全部解決」と軽々しく言うのではなく、実際に継続すること。
第7条(配置)
1. 社員の配置は、本人の能力、適性、希望、筋群の発達状況、組織の必要性等を総合的に考慮して決定する。
2. 営業部門には肩幅の広い者が好ましいが、それのみを理由として決定してはならない。
3. 企画部門には思考の柔軟性が必要であり、股関節の柔軟性が高い者は一定の加点対象となる。
第8条(異動)
1. 会社は、業務上必要がある場合、社員に配置転換、職種変更、部署異動その他の人事異動を命ずることができる。
2. 社員は、正当な理由なくこれを拒んではならない。
3. 脚の日の翌日に引越しを伴う異動を命ずる場合、会社は必要な配慮を行うものとする。
第3章 勤務
第9条(勤務時間)
1. 所定労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間とする。
2. ただし会社は、業務前または業務後に行われる任意参加の筋力錬成時間を設けることができる。
3. 前項の任意参加は、建前上任意とするが、実態としてほぼ全員参加になることがある。この会社はそうなりがちである。
第10条(始業前準備)
1. 社員は始業時刻前に出社し、業務開始に支障のないよう、机、椅子、姿勢、呼吸、メンタルおよび僧帽筋上部を整えておかなければならない。
2. 朝礼においては、ラジオ体操に代えてダイナミックストレッチ、チューブプルアパートまたは空気椅子を実施することがある。
第11条(休憩)
1. 休憩時間は法令および会社の定めるところによる。
2. 社員は休憩時間中、食事、休息、軽度のストレッチ、プロテイン補給、フォーム動画の確認その他心身の回復に資する行為を行うことができる。
3. 昼休みに高重量デッドリフトを行い、午後の会議で完全に魂が抜ける行為は慎むものとする。
第12条(在宅勤務)
1. 会社は、業務上必要または相当と認める場合、在宅勤務を命じ、または許可することがある。
2. 在宅勤務者は、通信環境、作業環境および最低限のトレーニング環境を整備するよう努めなければならない。
3. 在宅勤務中であっても、会社が定める「3分自重サーキット招集」が発令された場合、可能な範囲で参加するものとする。
第13条(遅刻、早退および欠勤)
1. 社員が遅刻、早退または欠勤をするときは、事前に会社へ届け出なければならない。やむを得ない場合は事後速やかに届け出るものとする。
2. 「昨日が脚の日だったため階段が降りられません」は月1回までを目安としてやむを得ない事情とみなすことがある。
3. 「ベンチプレスの自己記録更新に心を奪われていた」は原則として正当な理由と認めない。
第4章 服務規律
第14条(服務の基本)
1. 社員は、会社の方針に従い、誠実に職務を遂行し、互いを尊重し、安全を確保し、業務上の課題に対して筋肉的逃避ではなく筋肉的解決を図らなければならない。
2. 筋肉的解決とは、威圧や暴力ではなく、規律、継続、負荷管理、適切な補助、そして最後までやり切る態度をいう。
第15条(挨拶)
1. 社員は、明るく力強く、しかし無意味に大声すぎない挨拶を行うものとする。
2. 朝の挨拶は「おはようございます」に続けて、任意で本日の部位を申告してもよい。
3. 役職者は、自身の胸板に慢心することなく、先に部下へ挨拶しなければならない。
第16条(報告・連絡・相談)
1. 社員は、問題が生じた場合、速やかに報告、連絡および相談を行わなければならない。
2. 報告は簡潔に、連絡は正確に、相談は潰れる前に行うことを原則とする。
3. 上司は、部下からの相談に対し、「とりあえず気合い」とのみ述べて放置してはならない。精神論だけでは筋肥大しないのと同じで、業務も育たない。
第17条(身だしなみ)
1. 社員は、清潔な服装を保ち、会社の品位および筋肉の見え方を損なわないよう努めなければならない。
2. Tシャツ着用時に袖が明らかに三角筋へ敗北している場合であっても、会社は原則としてこれを咎めない。むしろ努力の結果として評価することがある。
3. ただし、業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務は禁止する。
第18条(禁止行為)
社員は、次の行為をしてはならない。
- 職場において他者を侮辱し、萎縮させ、または不用意に「その体で?」等と発言すること。
- 補助者なしで無謀な高重量に挑み、職場の安全秩序を乱すこと。
- 胸ばかり鍛えて背中と脚を著しく軽視し、組織のバランスを乱すこと。
- プロテインシェイカーを洗わず放置し、異臭という形で公害を発生させること。
- 会議中に無断でアンダーデスク・ダンベルカールを行うこと。
- 「上司の頼り甲斐は大胸筋から」という社訓を、他者への圧迫材料として悪用すること。
- 業務上のトラブルを、腕相撲による決裁で処理しようとすること。
第19条(守秘義務)
1. 社員は、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。退職後も同様とする。
2. トレーニング記録については、本人が公開を望まない限り、これを機密に準じて扱うことが望ましい。重量は人格ではないが、かなりセンシティブである。
第5章 筋力錬成制度
第20条(筋力錬成の原則)
1. 会社は、社員の心身の成長と業務品質向上のため、筋力錬成を重要施策として位置づける。
2. 社員は、会社の定める範囲で、週3回以上の基礎的トレーニングに努めるものとする。
3. 会社は、初心者、中級者、上級者それぞれに応じたメニューを提示し、無理な一律運用を避ける。
第21条(必修種目)
社員教育上、次の種目を基礎教養として推奨する。
- スクワット
- ベンチプレスまたは同等の押す動作
- デッドリフトまたは同等の引く動作
- プランクその他体幹種目
2 前項の種目は、人生の比喩としても重要である。立つ、押す、引く、耐える。この四つでだいたい世の中は回る。
第22条(部位別平等)
1. 社員は、大胸筋を尊びつつも、背中、脚、肩、腕、体幹その他の部位を軽視してはならない。
2. 会社は、「上司の頼り甲斐は大胸筋から」という社訓を有するが、これは胸のみを鍛えよという趣旨ではない。
3. 大胸筋は看板であり、脚は土台であり、背中は信用である。看板だけ立派で土台がない建物は、風が吹けば終わる。哀れな話である。
第23条(筋トレ日報)
1. 社員は、会社が指定する場合、トレーニング実施状況を筋トレ日報として記録する。
2. 日報には、種目、回数、重量、所感、業務への好影響等を簡潔に記載する。
3. 「今日は無理でした」とのみ記載する場合は、その理由と次回改善策を添えるものとする。筋肉は逃げ道を嫌う。
第24条(大会参加)
1. 会社は、ボディメイク大会、パワーリフティング大会、社内フィジカルコンテストその他筋力に関する競技会への参加を奨励することがある。
2. 大会参加者には、業務に支障のない範囲で特別調整を認めることがある。
3. 減量末期の者に対しては、会議資料の色味や同僚の菓子の咀嚼音が過剰刺激となり得るため、周囲は一定の理解を示すことが望ましい。
第6章 人事評価
第25条(評価の基本)
1. 社員の評価は、業績、能力、勤務態度、協調性、継続力、身体管理能力、後進指導力および総合的な頼もしさにより行う。
2. 筋肉量のみをもって評価を決定してはならない。
3. ただし、筋トレを継続できる者は、継続すべきことを継続できる可能性が高いため、一定の参考事情とはなる。
第26条(管理職要件)
管理職は、次の各号を満たすよう努めなければならない。
- 困難な局面でも落ち着いて指示を出せること。
- 部下の補助に入れること。
- 成果を独占せず、チーム全体を育てること。
- 姿勢が崩れていないこと。
- 社訓に照らし、頼り甲斐に疑義が生じない程度の大胸筋またはそれに準ずる説得力を備えること。
第27条(昇進)
1. 昇進は、本人の実績、能力、人格、組織貢献、再現性、筋トレ継続実績その他会社が必要と認める事情を総合考慮して行う。
2. ベンチプレスの重量がそのまま役職に変換されることはない。そんな単純な世界なら楽だが、現実はもう少し粘る。
第7章 賃金および表彰
第28条(賃金)
1. 賃金は、会社の賃金規程の定めるところによる。
2. 会社は、業務成績および筋力錬成への模範的取組みに応じ、各種手当または報奨を設けることができる。
第29条(筋肉手当)
会社は、次の手当を設けることがある。
- プロテイン補助手当
- ジム会費補助手当
- シューズ・ベルト・リストラップ等器具整備手当
- 大会出場支援手当
2 前項の詳細は別に定める。
3 サプリメントの摂取については、会社は節度と自己責任を求める。派手なラベルほど中身がすごいとは限らない。世の中そういう罠で満ちている。
第30条(表彰)
会社は、次の各号に該当する社員を表彰することがある。
- 卓越した業績を上げた者
- 困難な案件を粘り強く解決した者
- 後輩の育成に尽力した者
- 美しいフォームをもって組織に感銘を与えた者
- 長期にわたり黙々と継続し、気づけば全員から一目置かれていた者
第8章 安全衛生
第31条(安全の基本)
1. 社員は、業務および筋力錬成に際し、安全を最優先しなければならない。
2. 無理な重量設定、準備不足、補助なしの無謀な挑戦、体調不良時の強行等は禁止する。
3. 「気合いでいける」は安全管理の文言として認めない。
第32条(健康管理)
1. 社員は、十分な睡眠、適切な栄養、節度ある飲酒、計画的な休養その他健康保持に努めなければならない。
2. 会社は、健康診断、体力測定、姿勢評価その他必要な措置を講ずることがある。
3. 極端な減量または増量により通常業務へ支障が生じる場合、会社は改善を指導することができる。
第33条(負傷時の対応)
1. 社員がトレーニング中または業務中に負傷した場合、直ちに無理を中止し、上司または担当者に報告しなければならない。
2. 軽傷を英雄譚として語る前に、冷却、受診、記録を優先すること。
3. 筋を違えた者が「これは成長痛です」と言い張る場合、会社はその楽観を採用しない。
第9章 休暇および休業
第34条(休暇)
1. 年次有給休暇その他の休暇は、法令および会社の定めるところによる。
2. 社員は、計画的に休暇を取得し、心身を回復させなければならない。
3. 会社は、脚の日翌日の有給取得それ自体を不当視しないが、毎週恒常化する場合は計画性について面談を行うことがある。
第35条(リカバリー休暇)
1. 会社は、特に高負荷の業務遂行または大会出場その他相当の事由がある場合、リカバリー休暇を認めることがある。
2. リカバリー休暇中は、睡眠、栄養摂取、軽運動、入浴、静養その他回復に資する行為を推奨する。夜更かしゲームで回復を溶かすのは愚行である。
第10章 懲戒
第36条(懲戒事由)
社員が次の各号のいずれかに該当する場合、会社は懲戒処分を行うことができる。
- 本規則に違反したとき
- 業務命令に正当な理由なく従わないとき
- ハラスメント、暴力、威圧行為その他職場秩序を乱す行為をしたとき
- 筋トレの名を借りて他者へ不当な圧力をかけたとき
- 会社施設内で危険なトレーニングを反復し、再三の指導にも従わないとき
- プロテインシェイカーの洗浄義務を著しく怠り、衛生秩序へ重大な影響を及ぼしたとき
第37条(懲戒の種類)
1. 懲戒は、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇その他会社が必要と認める処分とする。
2. 会社は、懲戒にあたり、事実関係、本人の反省、再発防止策、筋トレ継続の姿勢等を総合考慮する。
3. ただし、反省文の末尾に「明日から脚を鍛えます」と書けば軽くなるものではない。
第11章 退職
第38条(退職)
1. 社員が退職しようとするときは、会社の定める期日までに申し出なければならない。
2. 退職に際しては、業務の引継ぎを誠実に行い、会社資産を返還し、後輩に背中を見せる最後の機会として態度を正すものとする。
3. 退職者が送別会で「筋トレだけは続けろ」と言い残すことは自由である。ただし泣きながらベンチ台を抱くことは危険であるため控えること。
第12章 附則
第39条(規則の解釈)
本規則の解釈に疑義が生じた場合は、社訓、会社理念、社会通念、安全配慮および筋肉の均整を踏まえて判断する。
第40条(改廃)
1. 本規則の改廃は、会社が行う。
2. 改定にあたっては、必要に応じ社員代表の意見を聴くものとする。
3. ただし、「腹筋を割るための会議時間短縮条項」等、魅力的だが乱暴な案については慎重に審議する。
付記 社員心得
一、重い案件ほど、足元を固めよ。
一、焦ってフォームを崩すな。雑な一発は、たいてい後で痛む。
一、補助を求めることは弱さではない。潰れてからでは遅い。
一、胸を張れ。ただし威張るな。
一、上司たる者、部下の前で言い訳より先に姿勢を正せ。
一、仕事も筋トレも、派手な初速より地味な継続が勝つ。
一、困難を前にしたら、逃げる前にまず一回しゃがめ。スクワットは多くを教える。
一、「上司の頼り甲斐は大胸筋から」とは、胸板の厚みだけでなく、前に立つ覚悟の厚みを意味する。そこを取り違えると、ただの胸のでかい迷惑な人になる。
一、筋トレが良い仕事を生む。ただし、仕事をしない者は、ただ鍛えている人である。会社はそこを厳密に区別する。
この就業規則に対する幾つかの質問を、LLM + RAGで実行します。
A) ベクトル検索
B) Agentic search
の2つの方法でそれぞれ回答を確認し、比較してみたいと思います。
方法
A) ベクトル検索
さて、ベクトル検索を扱う上では、事前のテキストの処理部分は非常に重要です。文章をベクトル化するには、ある程度の長さごとに文章を分割し、それぞれ処理していく必要があります。いろいろと分割する方法はあるのですが、今回は条項ごとに1つのベクトルに変換するという形式で実施しました。
ベクトル化については、OpenAIの"text-embedding-3-small"を用いました。
事前に、各条項を1536次元のベクトルに変換し、DBに保存しています。
実際にユーザーの質問が流れてきた際には、以下の流れで処理します。
① ユーザーの質問文を"text-embedding-3-small"でベクトルに変換
② ベクターDB内で質問文に対して類似度の高いテキストを3つ抽出
③ 上記で抽出した3つのテキストの内容を元に、"GPT-5.1"で回答を作成
B) Agentic Search
Agentic Search用に関しても、分割の仕方はベクトル検索と同様、条項ごとに分けていく形式をとりました。各条項が所属する章ごとにフォルダに分け、フォルダ内に{条項名.md}という命名で保存しました。以下のようなイメージです。
就業規則
├── 総則
│ ├── 適用範囲.md
│ ├── 基本理念.md
│ ├── 目的.md
│ └── 定義.md
├── 休暇および休業
│ ├── リカバリー休暇.md
│ └── 休暇.md
│
:
ユーザーの質問は、以下の流れで処理します。
① 事前に、各ファイルの配置構造と名前をリストで取得
② ユーザーの質問文を元に"GPT-5.1"で、①のリストの中から関連性のありそうなファイルを3つ選定し、ファイルの中身を抽出
③ 上記で抽出した3つのテキストの内容を元に、"GPT-5.1"で回答を作成
また、いずれの手法においても、抽出したテキストに関して、質問文との関連性が見出せなかった場合には「分かりません。」と回答するようシステムプロンプトを設定し、GPT-5.1のReasoningは無しにしました。
結果
では早速、結果に入りたいと思います。
まず、以下の質問をしました。
Q. タンクトップでの就業は許可されていますか?
こちらに関しては就業規則の「第4章 服務規律 第17条(身だしなみ)」に 記載があります。
1. 社員は、清潔な服装を保ち、会社の品位および筋肉の見え方を損なわないよう努めなければならない。
2. Tシャツ着用時に袖が明らかに三角筋へ敗北している場合であっても、会社は原則としてこれを咎めない。むしろ努力の結果として評価することがある。
3. ただし、業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務は禁止する。
つまり、「業務に支障がない程度のタンクトップであればOK」という回答が模範回答となります。
各手法における回答は...
A) ベクトル検索
第17条第3項に「業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務は禁止する」とあるため、
タンクトップでの就業自体は「過度」でなく業務に支障がなければ許可されていると解釈できます。
B) Agentic Search
就業規則 第17条第3項に、次のように定められています。
> 「ただし、業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務は禁止する。」
したがって、
- タンクトップでの勤務そのものは一律禁止ではないが、
- 「業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務」は禁止
という扱いです。
いずれも、きちんと回答できているようですね。
このケースでは、質問文に含まれる「タンクトップ」という語が明確で、関連条項にも「身だしなみ」と、近い表現が含まれているため、ベクトル検索・Agentic Searchのいずれも根拠となる文面に到達しやすかったと考えられます。
では、他の質問もしてみましょう。
次の質問はこちらです。
社内で推奨しているトレーニングは?
これは、就業規則上、「第5章 筋力錬成制度 第20条」および「第21条」に回答があります。
第20条(筋力錬成の原則)
1. 会社は、社員の心身の成長と業務品質向上のため、筋力錬成を重要施策として位置づける。
2. 社員は、会社の定める範囲で、週3回以上の基礎的トレーニングに努めるものとする。
3. 会社は、初心者、中級者、上級者それぞれに応じたメニューを提示し、無理な一律運用を避ける。
第21条(必修種目)
社員教育上、次の種目を基礎教養として推奨する。
1. スクワット
2. ベンチプレスまたは同等の押す動作
3. デッドリフトまたは同等の引く動作
4. プランクその他体幹種目
前項の種目は、人生の比喩としても重要である。立つ、押す、引く、耐える。この四つでだいたい世の中は回る。
つまり、「週3以上のトレーニングを推奨」「スクワット、ベンチプレス・デッドリフト同等のプッシュ(プル)種目・プランクに準じた体幹種目」という回答が出ればOKです。
A) ベクトル検索
分かりません。
おや?ベクトル検索では回答ができませんでした。
参考までに、ベクトルの類似度検索で、上記問いに対して抽出した項目をチェックしてみましょう。以下の条項が抽出されていました。
第20条(筋力錬成の原則)
1. 会社は、社員の心身の成長と業務品質向上のため、筋力錬成を重要施策として位置づける。
2. 社員は、会社の定める範囲で、週3回以上の基礎的トレーニングに努めるものとする。
3. 会社は、初心者、中級者、上級者それぞれに応じたメニューを提示し、無理な一律運用を避ける。
前文
株式会社マッスルソリューションズ(以下「会社」という。)は、「筋トレが良い仕事を生む」および「上司の頼り甲斐は大胸筋から」を不動の社訓として掲げ、筋力、胆力、継続力、そして適切なフォームをもってあらゆる業務課題に立ち向かう企業である。
会社は、単なる営利活動の場ではない。社員一人ひとりが身体を鍛え、精神を鍛え、報連相のついでに広背筋も鍛え、社会に対して筋肉という分かりやすい説得力を示す場である。
会社は、すべての問題が腕力のみで解決できるとまでは言わない。しかし、十分に鍛えられた者の発想、姿勢、呼吸、挙上速度は、鍛えていない者のそれに比べ、概してよく整っているというのが当社の実感である。会議が長いのは腹圧が足りないからであり、納期が遅れるのは追い込みが甘いからであり、部門間の連携が悪いのは背中の日を軽視しているからである、というのが当社の基本的立場である。かなり乱暴だが、この会社はそういう会社である。
よって本規則は、社員が筋トレを中核価値として理解し、日々の業務を高重量かつ高品質に遂行し、組織全体を美しくパンプアップさせるための基本的秩序を定めるものである。
第23条(筋トレ日報)
1. 社員は、会社が指定する場合、トレーニング実施状況を筋トレ日報として記録する。
2. 日報には、種目、回数、重量、所感、業務への好影響等を簡潔に記載する。
3. 「今日は無理でした」とのみ記載する場合は、その理由と次回改善策を添えるものとする。筋肉は逃げ道を嫌う。
確かに、いずれも、具体的な種目名や筋トレメニューに言及している文章ではないですね。第20条の「週3以上」までは抽出できていますが、質問への回答根拠として最も重要な21条が抽出できていません。
ベクトル検索の場合、埋め込みベクトルの類似度が判断基準となるので、質問の仕方によっては、100%目的のセンテンスを抽出できるとは限りません。今回の場合、「推奨トレーニング」と「必修種目」の類似度が他の文章よりも低く出てしまったのだと考えられます。
では、Agentic Searchの場合はどうでしょうか?
B) Agentic Search
社内で推奨しているトレーニングは、就業規則「筋力錬成制度」において次のように定められています。
- 週3回以上の基礎的トレーニングに努めること(第20条2項)。
- 社員教育上の「必修種目」として推奨されているのは(第21条):
1. スクワット
2. ベンチプレスまたは同等の押す動作
3. デッドリフトまたは同等の引く動作
4. プランクその他の体幹種目
見事に正解できました。きちんと必要な条項を抜き出していますね。
ユーザーの質問文に対して、フォルダ名やファイル名から関係のありそうなところを検索→抽出という流れがかなり有効に働いており、「社内で推奨しているトレーニング」という問いに対して、「筋力錬成制度」という章の名前や、その配下のファイル名が大きな手がかりになったと推定できます。
つまり、「情報がどこにありそうか?」をフォルダの構造から推定しやすい質問だったと言えるでしょう。
続けては、こちら。
「上司の頼り甲斐」の定義を教えてください
「え?こんな内容、就業規則にあるの?」と思う方もいるかも知れませんが、今回用意した就業規則にはしっかりと書かれています。全部で5箇所登場しますが、代表的なところですと、「第1章 総則 第3条」ですね。
第3条(定義)
本規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1. 「筋トレ」とは、筋力向上、筋肥大、姿勢改善、精神統一、仕事力向上その他会社が有用と認める身体的鍛錬の総称をいう。
2. 「パンプ」とは、適切な負荷および反復により筋肉が充実した状態をいう。なお、会社においては比喩的に、業務が波に乗っている状態を含む。
3. 「補助」とは、ベンチプレスその他の種目において重大事故を防止するため他者が支援する行為をいう。会社では業務上の支援一般にもこの語を用いる。
4. 「フォーム」とは、筋トレにおける正しい身体動作をいう。会社では報告書、会話、会議進行、謝罪の仕方にもフォームがあるものと解する。
5. 「上司の頼り甲斐」とは、判断力、責任感、包容力、危機対応力および胸板の総体をいう。
さっそく結果を確認してみましょう。
A) ベクトル検索
「上司の頼り甲斐」とは、判断力、責任感、包容力、危機対応力および胸板の総体をいう。
正解です!きちんと定義の部分から引っ張ってこれたようですね。
B) Agentic Search
分かりません。
おや?今度はAgentic Searchが「分からない」と言ってきました。
Agentic Searchで抽出された文章を確認してみましょう。
第26条(管理職要件)
管理職は、次の各号を満たすよう努めなければならない。
1. 困難な局面でも落ち着いて指示を出せること。
2. 部下の補助に入れること。
3. 成果を独占せず、チーム全体を育てること。
4. 姿勢が崩れていないこと。
5. 社訓に照らし、頼り甲斐に疑義が生じない程度の大胸筋またはそれに準ずる説得力を備えること。
「最大3件まで抽出して良い」という条件で与えていましたが、抽出された文章は1件のみでした。
それも関係ないとは言い切れませんが、回答を生成する論拠には足り得ないとLLMが判断したようですね。「上司の頼り甲斐」について、一番はっきり説明している第3条を引っ張ってくることができなかったようです。
これは、ファイル構造の類推に紐づく問題だと考えられます。
今回、この第3条の項目は、「就業規則/総則/定義.md」に格納されています。質問文の情報だけから、「定義.mdを見れば良い」という点が類推できなかったために、辿り着けなかったのだと思われます。
では、ちょっと質問文を変えてみるとどうなるでしょうか?
「総則上の「上司の頼り甲斐」の定義を教えてください」
と、場所のヒントを与えながら、Agentic Searchで回答させてみると...
総則上の「上司の頼り甲斐」の定義は、次のとおりです。
> 「上司の頼り甲斐」とは、判断力、責任感、包容力、危機対応力および胸板の総体をいう。
無事、回答できました。
つまり、Agentic Searchはフォルダ階層やファイル名の整理の仕方が重要であり、「質問文に対し、明示的な命名規則になっているか?どこにファイルが格納されているか類推できるか?」が精度に大きく影響します。
Agentic Search は「質問文に対して、回答がありそうな場所を検索する」方式なので、質問文から場所を類推しにくい場合に弱さが出ると言えるでしょう。
「上司の頼り甲斐」という語だけでは、「定義.md に答えがある」とまでは見抜けなかったわけです。
精度を上げるには、フォルダやファイルの名称の付け方を工夫し、もう少し分かりやすい命名にする必要がありそうです。
今回は「ファイルの場所を類推する」という過程を挟んでいますが、もちろん、「ユーザーの投げた質問文からキーワードを抽出し、直接ファイルの中身の文字列を検索する」という方法もあります。
この方法は文字列の一致で抽出するため、非常に多くの文章を読み込む重めの処理になりますが、ファイル数の少ない環境などでは、このような検索方法の方が有効に働く場合もあることでしょう。
では、もう少し続けてみましょう。
会議中に腕を鍛えて良いでしょうか?
こちらの答えは、「第4章 服務規律 第18条(禁止行為)」にあります。
第18条(禁止行為)
社員は、次の行為をしてはならない。
1. 職場において他者を侮辱し、萎縮させ、または不用意に「その体で?」等と発言すること。
2. 補助者なしで無謀な高重量に挑み、職場の安全秩序を乱すこと。
3. 胸ばかり鍛えて背中と脚を著しく軽視し、組織のバランスを乱すこと。
4. プロテインシェイカーを洗わず放置し、異臭という形で公害を発生させること。
5. 会議中に無断でアンダーデスク・ダンベルカールを行うこと。
6. 「上司の頼り甲斐は大胸筋から」という社訓を、他者への圧迫材料として悪用すること。
7. 業務上のトラブルを、腕相撲による決裁で処理しようとすること。
つまり、会議中に、ダンベルアームカールを実施して、腕...特に上腕二頭筋を鍛えるような行為は、規定上明確に禁止されていることがわかりますね。では、それぞれの結果を確認してみましょう。
A) ベクトル検索
分かりません。
失敗していますね。では、ベクトル検索で抽出した文章を確認してみます。
前文
株式会社マッスルソリューションズ(以下「会社」という。)は、「筋トレが良い仕事を生む」および「上司の頼り甲斐は大胸筋から」を不動の社訓として掲げ、筋力、胆力、継続力、そして適切なフォームをもってあらゆる業務課題に立ち向かう企業である。
会社は、単なる営利活動の場ではない。社員一人ひとりが身体を鍛え、精神を鍛え、報連相のついでに広背筋も鍛え、社会に対して筋肉という分かりやすい説得力を示す場である。
会社は、すべての問題が腕力のみで解決できるとまでは言わない。しかし、十分に鍛えられた者の発想、姿勢、呼吸、挙上速度は、鍛えていない者のそれに比べ、概してよく整っているというのが当社の実感である。会議が長いのは腹圧が足りないからであり、納期が遅れるのは追い込みが甘いからであり、部門間の連携が悪いのは背中の日を軽視しているからである、というのが当社の基本的立場である。かなり乱暴だが、この会社はそういう会社である。
よって本規則は、社員が筋トレを中核価値として理解し、日々の業務を高重量かつ高品質に遂行し、組織全体を美しくパンプアップさせるための基本的秩序を定めるものである。
付記 社員心得
一、重い案件ほど、足元を固めよ。
一、焦ってフォームを崩すな。雑な一発は、たいてい後で痛む。
一、補助を求めることは弱さではない。潰れてからでは遅い。
一、胸を張れ。ただし威張るな。
一、上司たる者、部下の前で言い訳より先に姿勢を正せ。
一、仕事も筋トレも、派手な初速より地味な継続が勝つ。
一、困難を前にしたら、逃げる前にまず一回しゃがめ。スクワットは多くを教える。
一、「上司の頼り甲斐は大胸筋から」とは、胸板の厚みだけでなく、前に立つ覚悟の厚みを意味する。そこを取り違えると、ただの胸のでかい迷惑な人になる。
一、筋トレが良い仕事を生む。ただし、仕事をしない者は、ただ鍛えている人である。会社はそこを厳密に区別する。
第17条(身だしなみ)
1. 社員は、清潔な服装を保ち、会社の品位および筋肉の見え方を損なわないよう努めなければならない。
2. Tシャツ着用時に袖が明らかに三角筋へ敗北している場合であっても、会社は原則としてこれを咎めない。むしろ努力の結果として評価することがある。
3. ただし、業務に支障を生じる過度なタンクトップ勤務は禁止する。
第18条は抽出できていませんでした。先ほども言った通り、ベクトル検索では、あくまでベクトルの類似度を見ているに過ぎませんので、「腕を鍛える」という言葉自体が、社内規約のベクトルに対して類似しなかったのだと類推できます。
では、言い方を変えて聞いてみるとどうでしょうか?
「会議中にダンベルカールをして良いでしょうか?」
第18条5項により、「会議中に無断でアンダーデスク・ダンベルカールを行うこと」は禁止されています。
したがって、会議中にダンベルカールをすることは認められていません。
できましたね...!
要するに、ベクトル検索の成否は「言葉をベクトル化した際に、類似度をいかに高く設計できるか?」「規約内の文章にある言葉でどれだけうまく表現することができるか?」が鍵になりそうです。
B) Agentic Search
就業規則第18条第5号で、
> 会議中に無断でアンダーデスク・ダンベルカールを行うこと。
が禁止行為とされています。
したがって、「無断で」会議中に腕を鍛えることはダメです。
Agentic Searchの場合、きちんと抽出できています。
質問内容から「就業規則/服務規律/禁止行為.md」のチェックにまで至り、きちんと第18条の内容を確認するという点がこの手法における重要なポイントですね。
この問いでも、「禁止行為.md」のようなファイル名がかなり強いヒントになったことが伺えます。
実務であっても、規程・手順書・社内ルールのような文書は、章立てやファイル名が意味を持ちやすいため、この種の探索と相性が良いと言えるでしょう。
考察 - ベクトル検索の必要性
以上、ベクトル検索とAgentic SearchによるRAGをそれぞれ見てきました。
率直な感想としては、「Agentic Searchはベクトル検索に匹敵するのではないか?」と、かなり可能性を感じました。
無論、上記で見てきたように、どちらにも得手不得手があります。「明示的なデータ構造(フォルダ階層・ファイル構造)」から類推できる限りにおいては、Agentic Searchが非常に強力に働きそうです。反対に、こういった構造が整っていない部分では、ベクトル検索にスポットが当たると思います。
ただ、Agentic Searchには明らかなメリットがあります。それは「データベースを作成する必要が無い」という点です。ベクトル検索には、ベクトルを格納するDBが必要です。また、文書の情報が刷新されるたびにDBの中身も更新する必要が出てきます。一方で、Agentic Searchにはその必要がありません。単純に、階層化されたフォルダ構造とファイル名で中身を整理しておけば、AIが適切に情報を拾ってくれるのです。
AI推進の鍵は整理整頓?
近年、LLMの社内利用が進む中、ベクトル検索は、非常に重視されてきました。
ベクトル検索は、文章の類似度で検索を行うため、表現の揺れや、ユーザーの不完全な質問を吸収しながら、意味的に近い情報を探しにいくことが可能です。
しかし、今回の実験で分かったのは、「データがきちんと構造化されている環境では、ベクトル検索なしでも、Agentic Searchのファイル検索だけでRAGが有効に働く」という点です。
"フォルダ階層に意味があり、ファイル名が内容を適切に表しており、関連資料がまとまりをもって配置されている。"
このような状態であれば、情報はすでに「探せる形」になっています。あとは「どのキーワードで検索するか?」という部分ですが、ここをAIエージェントが代替して、フォルダ構造のリストから、それっぽい場所をピックアップ&閲覧抽出してくれるわけです。
したがって、この前提では、必ずしもベクトル化によってデータベースを作成しなくても、エージェントによる探索だけで十分にRAGが成立するわけです。
つまり、「Agentic Searchでは、『社内の情報がどのように配置され、どの程度一貫したルールで管理されているか?』という一見、AIと関係なさそうな話が、RAGの結果を大きく左右する」ことが明らかになりました。
AIの精度を上げるために複雑なモデルや仕組み、ベクトルデータベースを後付けするより、まず情報の構造を整え、データの格納先を整理整頓するほうが、実は本質的な改善になり得るのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?
今回の検証では、「RAGに常にベクトルDBが必須とは言い切れない」ということが明らかになりました。少なくとも、フォルダ階層やファイル名が適切に整理されていて、必要なファイルを順に読みにいける環境では、ファイル検索を中心とした構成でも十分有効に機能します。
社内文書や業務規程、マニュアル、議事録、申請手順のような資料は、本来、誰が見ても探しやすい形で整理されているべきものです。もしその前提が満たされているなら、AIにとって、情報は非常に取得しやすいものになります。
その前提が満たされていないからこそ、ベクトル検索のような手段に頼らざるを得ないのであって、情報の設計そのものがしっかりしていれば、それ自体を検索性能という価値にまで昇華できるのです。
もちろん、ベクトル検索には、曖昧な質問や表現の揺れを吸収しやすい強みがあります。
ただ、実務寄りに言ってしまえば、まず「ベクトルDBの有無」よりも、「情報が人の目で見て整理されているかどうか」という方が、遥かに重要なのは言うまでもありません。
「ファイル名が分かりやすいか?」「階層に意味があるか?」「関連資料がまとまっているか?」
こうした基本が整っているほど、より単純な構成でもAIは働きやすくなります。
データの5Sという基本的な部分からきちんと整備していくことが、真のデータ活用やAI導入につながるように感じました。
さて、私もAIエージェントのために、社内の文書を綺麗にまとめることに専念した方が良いかも知れませんね...
ではまた!






