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2025.11.28

読了時間:8分

土地の価格の「なぜ?」で街の解像度を上げる! 〜ビジネス視点で読む『路線価図でまち歩き』〜

倉田陽右

はじめに

こんにちは!マーケティングアナリストの倉田です。

私は普段、公的統計データや競合情報をGIS(地理情報システム)やBIツールで可視化し、意思決定を支援する仕事をしています。現地調査に行くときも、事前に資料を読み込み、ストリートビューを確認し、多くの仮説を立ててから現場に向かうのがいつもの流れです。

いわば「データ」を武器に仕事をしている私ですが、新たな視点をもたらしてくれた一冊に出会いました。
中川寛子著『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)です。
URL: https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528515/

著者は30年以上にわたり不動産業界に携わる「住まいと街の解説者」です。本書は、単なる不動産投資のノウハウ本ではありません。路線価図というデータを片手に街を歩き、価格の裏側にある「なぜ?」を読み解くフィールドワーク指南書です。

本記事では、こちらの本の内容と、そこから得たビジネス視点での気づきを紹介します。

路線価図は本来「税金計算のための地図」

本書のユニークな点は、一般的な地図ではなく、タイトル通りの「路線価図(相続税路線価)」を片手に歩くことを提唱しているところです。

路線価図は本来、相続税・贈与税の課税のために、土地の評価額を公平かつ簡便に決めるための地図です。

私はこれまで業務で地価推計データを使うことはあっても、路線価図を現地調査で活用したことはありませんでした。しかし本書を読み、その認識は改まりました。
なぜか?
それは、路線価図が町丁目やメッシュといった「面」のデータでは見つけにくい、細かな変化を捉えられるからです。

もう少し具体的に言うと、道路一本ごとの粒度で数値を比較できる点が重要です。これにより「道路一本の向こう側」にある価格・価格差(現象)に気づき、そこから「なぜ?(理由は?)」という問いへつなげることができます。
さらに他の地図を重ねて考え直し、現地にも足を運んで検証すると、街の解像度が一段上がることが分かりました。

本書では、「価格・価格差」→「なぜ?」→「洞察」「検証」「読みとき」へと進めていく手法が紹介されています。
全国15ヶ所のまち歩きを紙上で再現しながら、そのプロセスをふんだんに見せてくれます。

※実際の路線価図は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」ページから誰でも閲覧できます。

価格・価格差の「なぜ?」を深掘りする:3つの要素×地図の重ね合わせ

では、具体的にどのような視点で価格の理由を読み解くのでしょうか。
著者は、土地価格の決定要因として利便性』『住環境』『災害リスク』の3要素を挙げています。

不動産価格の8割は『利便性』で決まり、基本的には駅から遠ざかるほど価格は下がります。しかし、この規則性に反する動きを見せるのが、『住環境』と『災害リスク』の2つの要素です。

つまり、価格・価格差の「なぜ?」の主な要因は、『利便性』『住環境』『災害リスク』の3つに集約されます。

価格・価格差の「なぜ?」を読み解くために、本書では路線価図だけでなく、地形図、都市計画図、ハザードマップ、戦災焼失地図、旧版地図なども重ね合わせます。
その手法が、第2章で(全体の約6割を使って)じっくり紹介されています。

例えば、南北の道路は通っているのに、東西の道が途切れており、周辺より路線価の低い地域があったとします。一見不思議なこの場所に地形図を重ねてみると、一方が急な傾斜地で道路が作れず、通り抜けるには大きく遠回りが必要だと分かります。
もし道路が途切れた先に店があった場合、地図上の直線距離では近くても、実際には「集客のハードル」が発生するエリアであることが見えてきます。

また、土地の使い道を定める「用途地域(都市計画図)」を重ね合わせることで、その土地の「ビジネスポテンシャル」が見えてきます。
一般的に、生活に必要な施設が多い準商業地域や商業地域で路線価が高い場所は、「人が集まり、商売のチャンスが大きいエリア」と言って良いでしょう。
著者の言葉を借りれば、「用途地域は土地の稼ぐ力の目安」といった趣旨の説明もあります。
もちろん、そうした場所は家賃も高く競合も多いため、単純な良し悪しではなく、自社の戦略に合うかどうかの見極めが必要です。

※用途地域図は、各自治体が公開している「都市計画情報(用途地域図)」などのページから確認できます。

顧客理解の出発点は「街を知ること」

皆さまは普段から、商売を繁盛させるためにマーケティングを活用し、顧客を深く理解しようと日々奮闘されていることと思います。

特に、店舗やチャネルを構え、足元商圏に住む顧客が多い業種・業態では、「街を知ること」は顧客理解の重要な切り口であり、出発点と言ってよいでしょう。

路線価図をベースに「地域を読み解く」本書のアプローチは、不動産業に限らず、あらゆるビジネスに役立つ視点だと感じました。

とはいえ、実務の中で路線価図の分析にまで時間を割けない現実もあります。私は路線価図と他の地図を重ね、時間をかけずに街の仮説を立て、解像度を上げていくスキルを、自身の武器に加えたいと考えています。

まずは本書の名古屋市の事例を再現し、他の場所で実践してみます。その模様は後日、本ブログにて報告します。

おわりに

本書を通じて、長年積み重ねられたノウハウを惜しみなく共有してくださった著者には、心から感謝しています。

また、この記事を書くにあたり、著者の解説動画や記事も拝見しました。
路線価図だけでなく、地理学全般にわたる広く深い知識や、「なぜ?」に向き合う探求心、そしてパワフルな姿勢を見習いたいと強く思いました。
ちなみに、インスタグラムもフォローしましたが、思わず「にやり」となる画像を毎日投稿されていて、とても面白いです。
著者が開催されているカルチャースクールの講座「路線価図で街歩き」にも、いずれ参加してみたいと思います。

書籍情報:
『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』
著者:中川 寛子
URL: https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528515/

書籍発行元:学芸出版社
URL: http://www.gakugei-pub.jp/

株式会社 東京情報堂(著者の中川寛子氏が代表を務める会社)
URL: http://www.tokyojohodo.co.jp/index.html

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