はじめに
こんにちは。マーケティングアナリストの倉田です。
本記事は、名古屋市東区を読み解く後編です。前編では、白壁・主税町・橦木町、徳川園から東区役所周辺にかけての一帯を取り上げ、住環境や歴史性、景観の質が土地の価値を支えている場所を見てきました(前編はこちら)。
今回も、中川寛子著『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)の考え方を手がかりに、名古屋市東区を「どんな商機があるか」という目線で読み解いていきます。本そのものの紹介や、路線価図を読む面白さについては、以前の書籍紹介記事でも触れています。(書籍紹介記事はこちら)
前編では、後編で取り上げるエリアとして、東桜・泉、葵・代官町・筒井、大曽根・ナゴヤドーム前・砂田橋を挙げました。ただ、書き進める中で、町名ごとに細かく分けるより、商売の成り立ち方が見えやすい単位で整理したほうが、東区の特徴をつかみやすいと感じました。
そこで後編では、東桜1丁目・泉1丁目、新栄町駅周辺・千種駅周辺、そして大曽根からナゴヤドーム前矢田、砂田橋にかけての一帯を中心に見ていきます。
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路線価の高い場所が、そのまま商売しやすい場所とは限らない。何によってその価格が支えられているのかを見分けないと、同じように見える土地でも向く商売は変わってくることが見えてきました。
後編では、その違いをできるだけ丁寧に見ていきます。
3.東桜1丁目・泉1丁目──同じ都心商業地でも「売上の取り方」が違う
東桜・泉一帯は、いずれも商業地域で、東区の中でも路線価が最も高いエリアです。栄に近いほど高く、離れるほど下がるという意味では、利便性のセオリーに沿った動きだと言えます。
ただし、同じ商業地域でも、価格を支えているものや売上の取り方は同じではありません。栄に接する東桜1丁目と、桜通を越えた泉1丁目では、街の役割も人の流れもかなり違って見えます。そこでこの章では、その違いが特にはっきり見える東桜1丁目と泉1丁目に絞って見ていきます。
①東桜1丁目周辺──都心結節に人は集まるが、商機は点で分かれる
東桜1丁目は、東区の中で最も都心商業地らしい性格が強く出ているエリアです。オアシス21や愛知県芸術劇場、愛知県美術館といった集客施設があり、NHK、中部電力、東海テレビなどの大きな拠点も集まっています。高層オフィスビルも目立ち、町全体として見れば、居住者の街というより、従業者と来街者によって動いている街と読んだほうが自然です。
ただし、この一帯は「人が多い街」であることと、「どこでも同じように商売しやすい街」であることが一致していません。特に南側は、一つひとつの施設やビルが大きく、公園や小学校もあるため、そもそも出店の余地が限られています。
また、オアシス21や愛知芸術文化センター沿いを走る錦通は、人が集まる施設に面しているにもかかわらず、地上の人通りはそれほど多くありません。栄駅から久屋大通駅にかけて地下街や地下連絡通路が整っており、また地下街の真上には数年前に整備された「Hisaya-odori Park(久屋大通公園)」もあり、にぎわいがそちらに吸われやすいことも影響していそうです。
今回の記事の対象外ですが、すぐ南を走る中区側の広小路通は人通りも多く、路線価も錦通より約3〜4割高くなっています。わずか1ブロックでここまで違うのは、通りの役割、施設配置、地下動線、沿道の土地利用の違いなどが複合的に絡んでいるからではないでしょうか。
一方、北側の久屋大通駅周辺には多くの飲食店とオフィスビルが並び、商売の気配が比較的濃く感じられます。とはいえ栄の繁華街とは全く違う、落ち着きのある雰囲気です。
そう考えると、東桜1丁目の路線価の高さは、町全体が一様に商売向きだからというより、都心隣接の立地、大企業オフィス、文化施設、地下動線を含む都心との結節性によって支えられている面が大きいのだと思います。商売の機会は大きい一方で、売上の取りやすさは通りや地点によってかなり差がありそうで、出せばどこでも成り立つというタイプの街ではなさそうです。
②泉1丁目──高密な都心居住と小規模事業所が支える複合商業地
泉1丁目は、都心に近い一方で、住む力がかなり強い複合商業地です。栄エリアから離れるにしたがって路線価はセオリー通り下がっていきますが、それでもなお高い水準を保っています。久屋大通駅や高岳駅に近い利便性に加え、東桜1丁目ほどオフィスや来街者だけで動く街ではなく、高密な都心居住が街の性格を大きく支えているように見えます。
実際に歩いてみると、15〜20階建ての高層マンションが軒を連ね、いまも建設中や建設予定の場所が見られます。一方で、昭和から残るような瓦屋根の一軒家や長屋もところどころにあり、従来の街並みの上に、都心居住が重なってきたような印象があります。
商売の面にも、この街の性格はよく表れています。久屋大通駅に近い南側には飲食店が多く、美容系をはじめとする比較的小規模な事業所も目立ちます。経済センサス2021を確認すると、名古屋市内で相対的に見ても事業所数は多い一方、従業者数は事業所数ほど上位には出てこないため、大きなオフィス集積というより、小さめの事業所が厚く積み重なっている街と読めそうです。
そう考えると、泉1丁目の路線価の高さは、都心近接の利便性に加えて、高密な都心居住と、それに支えられた日常利用型の商業の厚みによって成り立っている面が大きいのだと思います。都心に近い商業地ではありますが、売上の取り方は東桜1丁目ほど都心来街者頼みではなく、住む人、働く人、周辺を行き来する人を重ねて取る構造に近いように感じます。強い目的集客だけで成り立たせる商売よりも、日常の中で繰り返し選ばれる商売のほうが、この街には合っていそうです。
4.新栄町駅周辺・千種駅周辺──都心外縁で、駅前性と生活導線が重なる商業地
東桜1丁目・泉1丁目が都心商業地としての性格を強く持つのに対し、新栄町駅周辺と千種駅周辺は、都心外縁の駅前圏として読むほうが自然です。駅前性はありますが、繁華街のように人が面的に広がる場所ではなく、業務、居住、通勤通学、生活導線が重なることで、商売が成り立つエリアに見えます。
①新栄町駅周辺──「新栄」の北側で、寺町の余韻と駅前更新が重なる
新栄町駅周辺と聞くと、一般的には広小路通より南側、中区新栄の繁華性を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際、駅の南側は飲食店や居酒屋が多く、ライブハウスも見られ、夜型の色が比較的強いエリアです。国勢調査のメッシュで見ても、1人世帯、民営借家、共同住宅の多さが南側に出ており、都心近くで暮らす単身者の街という面も感じられます。
■125mメッシュでみる、単身・借家・共同住宅の南北特徴の違い【国勢調査2020】
一方、今回見ている東区側は、主に東桜2丁目と葵1丁目です。広小路通を挟んだ南側とは雰囲気が変わり、駅前のにぎわいをそのまま受けるというより、オフィス、居住、文化施設、寺院が混じる都心外縁の駅圏として見えてきます。
路線価を見ると、全体としては栄エリアから東へ離れるにつれて価格は下がりますが、新栄町駅付近ではいったん持ち直します。これは、駅の存在に加え、駅前に業務機能が集まり、高度利用されるだけの土地条件があることを反映しているように見えます。
さらに面白いのは、新栄町駅から千種駅までの区間で、錦通と広小路通の路線価がわずかに逆転することです。広小路通側は栄から離れるにしたがって価格が下がる一方、錦通側は新栄町駅前で持ち直した水準がしばらく残る。加えて、広小路通の景観形成地区の範囲や歩道の幅、南側に広がる夜型飲食の性格なども、複合的に影響しているのかもしれません。
東区側の内部を見ると、南北に走る大通りを境に、西側の東桜2丁目と東側の葵1丁目で表情が変わります。東桜2丁目は全域が商業地域ですが、古地図にも見える寺院の集積が今も残り、商業地域でありながら高層ビルが連続する街という印象はあまり強くありません。
一方、葵1丁目は駅前型の更新が進んでいるエリアです。新栄町駅に近い大通り沿いには、超高層オフィスビル、美術館、ホール、学習センター、大学、医療施設、高層マンションなどが見られます。ただし、大通りから中に入ると近隣商業地域となり、住宅や教会なども混じります。泉1丁目ほど高密な都心居住に振り切れているわけではありませんが、居住者、従業者、来街者が重なる街として読むことができそうです。
そう考えると、新栄町駅周辺の東区側は、大きな集客施設で一気に人を集める場所というより、周辺の従業者、駅利用者、近隣居住者、中区側の新栄を行き来する人を少しずつ拾う商売がなじみやすそうです。東桜2丁目では、地上の通行量に頼るより、目的来店型の店や地域との相性が、葵1丁目では駅・大通り沿いの従業者需要と居住者需要をどう拾うかが重要になりそうです。
②千種駅周辺──線路が回遊を分ける、乗換駅前の生活商業圏
千種駅は、JR中央線と地下鉄東山線が結節する利便性の高い駅です。東区側に限ると、周辺は葵2丁目・3丁目が中心になります。JR中央線を挟んだ東側は千種区内山3丁目で、今池方面から続く商業地の色が強く、飲食店も多く見られます。一方、東区側は大通り沿いが商業地域、中へ入ると近隣商業地域となり、オフィス、ホール、マンション、生活サービスが混じる駅前圏として見えてきます。
路線価図を見て気になったのは、JR中央線に沿うように南北に走る赤萩町線です。片側2〜3車線ある広い道路ですが、広域的な幹線道路というより、千種駅前と周辺の幹線道路をつなぐ性格が強い道路に見えます。それにもかかわらず、広小路通との交差部から、錦通を越え、桜通との交差点付近までは路線価が高くなっています。これは、この区間が千種駅の駅前圏に含まれ、広小路通、錦通、桜通への接続を担っているためではないでしょうか。
一方で、桜通との交差点より北側に入ると、路線価は大きく下がります。ここから先は車道駅にも近いものの、千種駅前の商業圏というより、生活道路としての性格が強くなるように見えます。赤萩町線の路線価の変化には、千種駅前圏の範囲がかなり素直に表れているのかもしれません。
この一帯で大きいのは、JR中央線による東西の分断です。東区側と千種区側を行き来するには、北から桜通、錦通、広小路通を使う必要がありますが、橋や高架の構造は、歩行者や自転車にとって心理的な距離を生みやすいように感じます。千種駅は便利な乗換駅ですが、その便利さがそのまま駅前の面的なにぎわいにつながっているわけではなさそうです。
また、葵3丁目は事業所数・従業者数ともに東区内で多く、これまではオフィス色の強い駅前圏でもありました。ただ、住友生命千種ビル群が2023年3月末で全館閉館したことで、この印象は今後変わっていく可能性があります。再開発によって居住機能が強まれば、千種駅周辺の東区側は、オフィス中心の駅前から、都心居住と生活サービスが重なる駅前へ少しずつ性格を変えていくかもしれません。
そう考えると、千種駅周辺の東区側では、駅前の通過客だけに頼るより、乗換客、通勤通学客、周辺の就業者、そして今後増える可能性のある居住者を、どれだけ重ねて取り込めるかが重要になりそうです。一方で、目的なく歩き回る人を広く拾う繁華街型の商売は、東区側だけを見ると少し難しいかもしれません。
5.大曽根〜ナゴヤドーム前矢田〜砂田橋──準工業地域に、来街者と住民需要が重なるハブ型エリア
5章で見る大曽根駅、ナゴヤドーム前矢田駅、砂田橋駅周辺は、東桜・泉のような商業地域中心のエリアとは性格が異なります。大曽根駅周辺の一部には商業地域や近隣商業地域がありますが、ナゴヤドーム前矢田駅周辺を中心に、広い範囲は準工業地域です。砂田橋駅周辺には第一種住居地域も見られます。
そのため、この一帯は「商業地」として読むより、工業地の履歴を持つ土地に、大型集客施設、事業所、住宅地、学校、日常商業が重なったエリアとして見たほうが自然です。だからこそ、大曽根、ナゴヤドーム前矢田、砂田橋では、商売の成り立ち方もそれぞれ違って見えてきます。
①大曽根駅周辺──商業の顔は北区側、東区側は生活と業務の受け皿
大曽根駅は、鉄道3社に加えてガイドウェイバスも乗り入れる交通結節点です。歴史的にも名古屋城下の北東の出入り口にあたり、街道の分岐点でもあったようで、もともと交通の要所としての素地があった場所だと考えられます。
路線価を見ると、この一帯では大曽根駅に近いほど価格が高く、駅を挟んだ東西で大きな差は見られません。ただし、この周辺で最も高い価格帯は西側、つまり北区側にあり、駅前商業の集積もそちらに多く見られます。駅直結の地下街OZ GARDENや周辺商店街があるのも西側で、駅前らしいにぎわいはこちらに強く出ています。
一方、駅の東側、つまり東区側を見ると、性格は少し変わります。東側には三菱電機名古屋製作所という大規模事業所があり、周辺には住宅地も広がっています。名古屋市道名古屋環状線を挟んだ北側には新旧の戸建てが多く、メッツ大曽根のような商業施設もありますが、駅前商業というより、生活と業務を受け止める街として見たほうが自然です。
また、大曽根駅の南東側も東区に含まれます。前編で取り上げた徳川町の北側にあたり、赤萩町線沿いでは大曽根駅に近づくにつれて少しずつ商売の気配が出てきます。ただ、通りから一歩中へ入ると、徳川町から続く落ち着いた住宅地の雰囲気が残っています。またJR中央線と三菱電機の大きな敷地が東西の移動を分けているため、イオンモール側へ向かうには心理的な距離がありそうです。
そう考えると、大曽根駅周辺の東区側は、駅前商業の中心というより、北区側の商業集積、三菱電機などの従業者需要、周辺住宅地の日常需要を受ける場所として読むのがよさそうです。住む場所としての利便性は高い一方、商売としては出店できる場所や導線が限られます。大曽根駅利用者や従業者を取り込むなら、駅からの動線上に立地できるかどうかが重要になりそうです。
②ナゴヤドーム前矢田駅周辺──広域集客と住宅地が駅を挟んで分かれる街
ナゴヤドーム前矢田駅周辺は、名城線・ゆとりーとライン沿いの道路を境に、南北で街の性格がかなりはっきり分かれます。
南側には、バンテリンドーム ナゴヤ、イオンモールナゴヤドーム前、大学、文化施設、三菱電機名古屋製作所の一部があり、広域集客や従業者需要が強く出るエリアです。ドームのイベント来場者、イオンの買い物客、大学や事業所に通う人が重なり、東区の中でもかなり特殊な人の集まり方をする場所だと思います。
一方、駅の北側に入ると、印象は大きく変わります。新旧の戸建てや中低層マンションが並ぶ住宅街で、比較的小規模な事業所も見られます。路線価も、北側では駅から遠ざかるにつれてわずかに下がり、幅の広い道路沿いでは少し高くなるなど、住宅地としては比較的セオリー通りの動きをしているように見えます。
この南北差の背景には、土地利用の履歴もあります。現在のドームや大学、文化施設がある南側一帯は、かつて三菱重工業名古屋発動機製作所大幸工場が広がっていた場所で、軍需工場として戦時中には空襲の標的にもなりました。現在の大型施設が集まる土地利用は、そうした広大な工場跡地の転換として見ることもできます。
また、北側の住宅地では、災害リスクにも注意が必要です。洪水ハザード上では浸水リスクが想定される地域ですが、路線価を見る限り、その影響が大きく価格を押し下げているようには見えません。駅近や生活利便性が、一定程度価格を下支えしている可能性がありそうです。
■125mメッシュでみる、駅北側と南側との人口集積の大きなギャップ【国勢調査2020】
そう考えると、ナゴヤドーム前矢田駅周辺は、駅を挟んで「南の広域集客」と「北の生活圏」が隣り合う街として読むのが自然です。ただし、南側の施設を目的に来た来街者や従業者の多くは、北側の住宅地まで回遊しにくいように感じます。商売としては、南側の集客に乗るのか、駅沿いで近隣住民の需要も拾うのかで、立地の見方が変わってきそうです。
③砂田橋駅周辺──団地・マンション群と買い物利便が支える生活拠点
砂田橋駅周辺は、大曽根駅やナゴヤドーム前矢田駅周辺とは少し性格が異なります。広域から人を集めるというより、周辺住民の日常需要を受け止める生活拠点として見るほうが自然です。
駅の北側、北東側、南側、南東側には、1970年代後半から1980年代にかけて建てられた団地やマンション群があり、65歳以上人口数が高く出ています。長く住み続けている人が多い可能性があり、日常の買い物、医療、福祉、生活サービスへの需要が厚そうです。
■125mメッシュでみる、65歳以上人口数や共同住宅世帯数の高さ【国勢調査2020】
実際、駅の近くにはマックスバリュを核とする砂田橋ショッピングセンターがあり、少し東へ行けばコノミヤ砂田橋店やコーナン砂田橋店、さらに先にはアピタ千代田橋店もあります。イオンモールナゴヤドーム前も含めると、食料品や日用品の購入先を複数選べるエリアで、生活利便性はかなり高いように見えます。
一方、駅の北西側には、矢田方面から続く戸建てや中低層マンションの住宅地が広がります。周辺には学校も多く、住宅地としての厚みも感じられます。
路線価を見ると、砂田橋駅周辺で少し気になったのは駅の北西部の住宅街よりも、駅の南東部のほうが1〜2割ほど高く見える地点があります。駅距離だけで見ると少し不思議ですが、砂田橋駅だけでなく茶屋ヶ坂駅側の生活圏にも近く、買い物施設への導線や道路条件が価格に影響していそうです。
ただし、この一帯も洪水ハザード上の浸水リスクには注意が必要です。北側の矢田川沿いでは、家屋の倒壊・流出リスクが想定される区域もあります。前編から見てきたように、路線価は利便性だけでなく、住環境や災害リスクとも重ねて読む必要があります。
そう考えると、砂田橋駅周辺に向くのは、広域集客を狙う商売というより、近隣住民の日常を支える商売です。遠方から人を呼び込むより、既存の住民需要を継続的に拾えるかどうかが重要になりそうです。
後編 まとめ
後編では、前編で見た住宅地型のエリアとは異なり、東区の中で商売の成り立ち方が見えやすい場所を見てきました。
ただし、それらはすべてが同じ意味での「商業地」ではありません。東桜1丁目・泉1丁目のように商業地域として都心的な売上密度を持つ場所もあれば、新栄町駅周辺・千種駅周辺のように、都心外縁の駅前性と生活導線で成り立つ場所もあります。さらに大曽根〜ナゴヤドーム前矢田〜砂田橋の一帯は、準工業地域を中心に、大型施設、事業所、住宅地、学校、日常商業が重なるエリアとして見るほうが自然でした。
つまり、東区で商売を考えるときに大事なのは、用途地域の名前だけで判断することではありません。商業地域だから商売しやすいとも限らず、準工業地域だから商売と無縁というわけでもない。その場所に集まる人が、従業者なのか、来街者なのか、近隣住民なのか。あるいは、その複数がどのように重なっているのかを見る必要があります。
おわりに
今回、名古屋市東区を題材に、路線価図を起点として街の性格や商機を考えてみました。
正直に言うと、最初は路線価図だけを見ても、街を十分に理解することはできませんでした。数字は並んでいるのですが、なぜその価格なのか、何がその価格を支えているのかまでは、路線価図だけではなかなか見えてこなかったからです。
ただ、そこに用途地域、古地図、地形、ハザードマップ、国勢調査、経済センサス、施設の立地、そして実際に歩いた印象を重ねていくと、少しずつ見え方が変わってきました。
なぜ、この通りは高いのか。
なぜ、駅に近いのに商売の気配が弱いのか。
なぜ、同じ商業地域なのに街の雰囲気が違うのか。
なぜ、同じような条件に見える住宅街の価格に差が出るのか。
そうした「なぜ」を見つけることが、路線価図を読むうえで一番大事なのだと思います。そして、その「なぜ」に対して仮説を立て、別の地図やデータ、現地の印象で確かめていく。その繰り返しによって、ようやく街の輪郭が見えてきます。
もちろん、今回書いたことはすべてが正解だと言い切れるものではありません。あくまで、路線価図と複数の情報を重ね、自分なりに考えた仮説です。ただ、路線価図を何度も見て、「なぜ」「仮説」「検証」を繰り返していくと、その街がどのような性格を持ち、どんな商売が成り立ちやすいのかを、ある程度想定できるようになる感覚はありました。
路線価には理由がある。
ただし、その理由は路線価図の中だけに書かれているわけではありません。
用途地域、歴史、住環境、交通、地形、災害リスク、人の流れ、そして現地を歩いたときの違和感。そうしたものを重ねていくことで、初めて「なぜその道は高いのか」が少しずつ見えてくるのだと思います。
商売を考えるときも、結局はそこが大事なのだと思います。路線価の高さだけを見ても、その場所で誰を相手に売上をつくるのかまでは分かりません。従業者なのか、来街者なのか、近隣住民なのか。あるいは、その複数が重なる場所なのか。そこまで見て初めて、その土地に合う商売の形が少し見えてくるように感じます。
今回の記事が、路線価図を単なる土地価格の表としてではなく、街を読むための入口として見るきっかけになればうれしいです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※今回参照した主な資料
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」
- 名古屋市「都市計画情報提供サービス」
- 名古屋市東区公式ウェブサイト
- 名古屋市「東区 洪水ハザードマップ(日本語版)」
- 国土地理院「デジタル標高地形図」
- 名古屋市図書館デジタルアーカイブ「なごやコレクション」
- 名古屋都市センターデジタルアーカイブ「名古屋市焼失区域図」
- 政府統計の総合窓口「e-Stat」

























