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2025.05.29

読了時間:10分

売上予測はもう古い?──3層の適切評価で確度を高める出店戦略 / 前編

倉田陽右

はじめに

はじめまして。私はエリア分析や顧客分析に長年携わってきたマーケティングアナリストの倉田と申します。

今回のテーマは「革新的なノウハウ」や「最先端の理論」ではありません。むしろ、多くの方が頭では分かっていても、なかなか実行に移せない──そんな"基本的だけれど大切なこと"を整理してお伝えしようと思っています。

出店業務は、ときに勘と経験頼みになりがちです。加えて、昨今は人手が足りない中でも、スピード感のある意思決定を求められることが増えています。そんな状況のなか、「分かっているけど、できていない...」と感じている方も多いのではないでしょうか。

今回は、そうした皆さまに代わって、出店戦略を"3層構造という視点"から見直す考え方を整理してみました。業務のヒントや、今後の方向性を考えるきっかけとして、少しでもお役に立てば幸いです。

「売上予測は当たらない」は、現場のリアルな声

「売上予測は当たらない」
出店判断に携わる多くの方が、経験的にこう感じているのではないでしょうか?

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  1. 立地も商圏も悪くないはずなのに、なぜか売れなかった店舗がある...
  2. 予測の数値は良かったが、現場の感覚とはズレていた...
  3. 結局、出店の成否は「別の要因」に左右されている気がする...
  4. そもそも、どんな予測を信じればいいのか、自信が持てない...

出店を担当される皆さまにとって、「売上予測」は重要な仕事です。しかし、その予測が「当たらない」「不確か」「関係者に納得してもらいにくい」ものになりがちなのも事実。その違和感は、決して間違いではありません。

この記事では、その"もやもや"の正体を「売上の構造」から解き明かし、「どの要因を、いつ、どう評価すべきか?」という出店判断の視点をご提案します。「売上金額をピンポイントで当てる予測」から脱却し、より確度の高い意思決定を目指しましょう。

なぜ従来の「売上予測」は当たりにくいのか?

多くの場合、出店判断に使われる売上予測は主に商圏データと立地条件をもとに行われます。

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  1. 昼間・夜間人口
  2. 通行量や視認性
  3. 周辺の競合店舗数
  4. 主要施設との距離 など

これらは「商圏や立地のポテンシャル」を示す重要な指標であり、定量化しやすく、過去の実績データに基づく分析も可能です。
しかし──これだけで「売上金額」を正確に予測するのは、極めて困難です。
なぜなら、実際の売上は、もっと多層的な要因によって決まるからです。
特に、出店戦略(誰に何を売るか)や店舗運営(現場でどう売るか)といった要素が、従来の予測モデルからは抜け落ちがちなのです。

売上は「3つの層」で決まる:成功確率を高める構造的理解

私たちは、出店の売上をより正確に理解するために、以下の「3層構造モデル」を提唱しています。

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第1層:経営戦略・マーケティング戦略(「何を、誰に、どう売るか」の設計図)

全ての土台となるのが、「誰に、何を、どのように提供するのか?」という事業の根幹をなす戦略です。

  1. 要素:
    1. 3C分析、○ STP分析、○ ブランドポジショニング、○ 提供価値
    2. ビジネスモデル、○ 価格戦略、○ 商品構成、○ ターゲット顧客
    3. 出店による役割(ドミナント形成、認知向上、実験など)
  2. 特徴:
    1. 出店計画の初期段階で定義・検証されるべき最重要要素。
    2. この設計が市場ニーズとズレていれば、どんな好立地でも成功は難しい。
    3. 既存業態なら過去の知見がある程度活かせるが、新業態では不確実性が高まる。
    4. 一度決めると短期的な変更は難しい。

第2層:商圏・立地要因(「どこで売るか」のポテンシャル)

従来の売上予測が主に注目してきた層です。

  1. 要素:
    1. 商圏人口(昼夜、年齢構成、所得)、○駅距離、○交通量、○視認性
    2. 駐車場の有無、○ 競合・補完施設の状況、○ 物件の物理的条件(広さ、間口)など
  2. 特徴:
    1. 物件探索・絞り込み段階で重点的に評価すべき要素。
    2. 出店後は変更できない固定変数であり、意思決定の重みが大きい。
    3. GISや統計データ、現地調査によって定量的・客観的に評価しやすい。
    4. AI・機械学習などを活用した「スコアリング」に適している。

第3層:店舗運営・マーケティング戦術(「現場でどう売るか」の実行力)

実際に店舗を運営し、売上を最大化するための実行力です。

  1. 要素:
    1. 4P(Product:品揃え・鮮度、Price:価格設定・割引、Place:陳列・導線、Promotion:販促・口コミ)
    2. 接客品質、○ スタッフのスキル・モチベーション、○ 店長のマネジメント能力
    3. 地域密着活動、○ オペレーション効率(営業時間、在庫管理)など
  2. 特徴:
    1. 出店判断の最終段階での実現可能性評価や、開店後に継続的に改善・強化していくべき要素。
    2. 現場の努力次第で改善できる変動変数だが、属人性が高く、標準化や事前の正確な数値予測は難しい。
    3. 同じ立地・ブランドでも、運営力によって売上が大きく変動する要因。

前編はここまでにさせていただきます。

後編では、「出店前後における3層の評価タイミング」や、「意思決定の助けになるスコアリング」について詳しくご紹介します。引き続きお読みいただければ幸いです。

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