はじめに
こんにちは!マーケティングアナリストの倉田です。
私は長年、実店舗を多店舗展開する企業のエリア分析や顧客分析をお手伝いしてきました。
情報収集と学びのため、スターバックス コーヒー ジャパンの公式メディアを定期的に読んでいますが、最近「地域」という言葉がたびたび目に留まります。どこに出店するかだけでなく、その地域でどのような役割を担うかを重視しているように感じます。その発信に触れたとき、以前読んだ一冊のことを思い出しました。
今回紹介したい書籍は、松本大地著『街づくり×商業 リアルメリットを極める方法』(学芸出版社)です。
URL:https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528959/
2024年6月に出版された本書が扱うのは、個々の店舗の出店戦略ではなく、地域や街という大きな単位で、商業がどのような価値を生み出せるかというテーマです。冒頭で触れたスターバックスの「地域」への向き合い方にも通じる視点だと感じ、今回改めて読み直しました。そして商業が地域とどのような関係を築き、街に何をもたらすのかを、自分なりに考えてみました。
本書は
店舗を構える商売では、お客様に来店していただき、商品やサービスを買っていただく必要があります。
そのためには、どうすれば来店してもらえるのか。どこに出店すれば、その可能性が高まるのか。来店した人に、どのような価値を提供すればよいのか。商売を考えるうえで、避けては通れないハードルです。
本書が扱うのは、個々の店よりもひとつ、ふたつ大きな単位です。地域や街、商業施設を舞台に、人が集まり、滞在し、再び訪れたくなる場所をどのようにつくるのか。その方法や考え方が、国内外のさまざまな事例を交えて紹介されています。
私は本書を、「地域で暮らす人や訪れる人にとって何が価値になるのかを徹底的に考え、その価値をブレのないように、街や商業施設の隅々まで形にする。そこに人が集まり続けることで、商売も成り立つ。何にせよ、その中心にいるのは人である」と受け取りました。
それにしても、街をつくるとは......大きな話です。
なんとなく想像はできますが、実現までの道のりは、とても長く険しそうです。しかも、一度人を集めれば終わりではありません。その街や施設ならではの価値を、提供し続ける必要があります。
人が集まり、交流が生まれる場所
本書では、その地域ならではの「訪れる理由」があることで人が集まり、そこで滞在や交流が生まれることが、ほぼすべての章で繰り返し取り上げられています。
交流といっても、初対面の人同士が積極的に会話することだけではありません。家族や友人と時間を過ごすこと、地域の活動に参加すること、顔見知りと言葉を交わすことなど、さまざまな形があります。また、積極的に交流しなくても、同じ場所で人の気配を感じながら一人で過ごせることも、リアルな場所ならではの価値ではないでしょうか。
そのような滞在や交流の場の一つとして挙げられているのが、パブリックスペースです。本書では、誰でも利用しやすいオープンスペースやコミュニティスペースを設けた商業施設の事例が数多く紹介されています。
商業施設には、人を呼び、長く滞在してもらうためのさまざまな空間や仕掛けがあります。しかし、パブリックスペースを含め、施設側が用意したものが、そのまま利用者にとっての価値になるとは限りません。実際に人が利用し、必要とし、そこでさまざまな関わりが重ねられることで、初めて交流の場として地域に根づいていくのではないでしょうか。
価値があるかどうかは、人が決める
本書では「価値」の重要性が多く語られています。私は本書から以下のように受け取りました。
地域固有の課題を読み取り、地域の資源を活かしながら、その地域に合った方法で解決を図ることで「訪れる理由・過ごす理由・暮らす理由」が生まれる。ただし、施設や空間を整備しただけでは、価値が地域に根づいたとはいえない。訪れる人、過ごす人、暮らす人が、それぞれの形で場所を利用し、関わりを重ねることで、価値は守られ、育ち、やがて地域そのものの魅力へとつながっていく。
掲載されている事例のうち3つを本書の内容をベースに私なりに調べて簡単にまとめました。
ラゾーナ川崎
東京方面や横浜方面からのアクセスに恵まれた川崎駅。その西口に広がっていた東芝工場の跡地を、商業、住宅、オフィス、広場からなる開かれた街へ転換し、それまで一般の人が訪れる理由に乏しかった西口に、近隣地域の人たちが日常的に利用しつつ、広域からも買い物や食事、映画、イベントを楽しみ、滞在できる新たな目的地をつくった。都心からのアクセスや駅直結の利便性だけに頼らず、広場やイベント、幅広い店舗構成によって来館者の満足を高め、川崎駅西口の印象を大きく変える存在になった。
あべのキューズモール
木造住宅や小規模店舗が密集し、防災性や道路環境などに課題を抱えていた天王寺・阿倍野ターミナル南西側。その再整備のなかで、多数の居住者や商業者などの権利者との調整を重ねながら、住宅や商業施設、道路などが一体的に整備された。さらに、周辺の百貨店とは異なる日常性の高い店舗構成と、子育て世帯が利用しやすい空間を整えた。これにより、それまで人が足を向ける理由に乏しかった南西側に、買い物や食事、休憩のために訪れ、過ごす新たな理由を生み出した。
キーノ和歌山
百貨店の閉店や駅利用者の減少によって、求心力を失いつつあった南海和歌山市駅。そこに市民図書館、地域の食、買い物、医療、宿泊などの機能を重ね、電車に乗る人だけの駅から、市民が日常的に訪れ、遠方から来た人も和歌山らしさに触れながら過ごせる複合拠点へと再生した。商業だけでなく、公共サービスや地域文化を組み合わせることで、失われつつあった駅前の来訪理由を再び生み出した。
置かれた状況も、用いた手法も異なりますが、3つの事例に共通しているのは、その地域に何が足りないのかを読み取り、「訪れる理由・過ごす理由・暮らす理由」のいずれかを、地域に合った形で生み出していることです。
ただし、これらの施設や機能は、つくり手が価値を宣言したから価値になったわけではありません。人が実際に訪れ、過ごし、繰り返し利用し、関わりを重ねることで、初めて地域の価値として根づいていくのだと思います。
価値の種をつくるのは事業者でも、それが本当に価値になるかどうかを決めるのは、利用する人なのではないでしょうか。
本書に関連する取り組み
本書でも紹介され、著者の松本大地氏がアドバイザーとして関わる福山駅前の再生は、現在も進んでいます。
2026年5月28日には「福山駅前広場整備基本計画」が策定されました。本書で紹介された取り組みが今後どのような形になり、実際に人々に利用され、地域の価値として育っていくのか楽しみです。
福山駅前広場整備基本計画URL:
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/
また、私が確認した範囲では、一般に公開されている松本氏の講演動画は多くありません。そのなかで、弊社のある名古屋市で開催された「第3回金山駅周辺まちづくりシンポジウム」では、約40分にわたる講演を見ることができます。
第3回金山駅周辺まちづくりシンポジウムURL:
https://www.city.nagoya.jp/
ページ内の「シンポジウム前半【イントロ、基調講演】」から視聴できます。松本氏の講演は23分頃から始まります。
おわりに
本書を改めて読み直して特に印象に残ったのは、街や商業施設の価値は、つくり手が用意して終わるものではないということです。人に利用され、必要とされ、関わりが重なることで、初めて地域の価値として育っていくのだと思います。
スターバックスの発信で目にした「地域」という言葉から思い出した一冊でしたが、読み直してみると、商業が地域の一員になるとはどういうことなのかを、改めて考えるきっかけになりました。
本書には、著者の経験や取材に基づく国内外の事例が豊富に掲載されています。カラー写真も多く、街づくりや商業という大きく難しいテーマを、実際の街や施設をイメージしながら読み進めることができます。中でも、私が一番引き込まれ読み応えがあったのは第7章のメルボルンの事例です。
多くの事例を掲載するために簡潔さを優先したのか、それともページ数の制約なのか、事例から結論に至る説明が簡潔で、やや断定的に感じる部分もありました。それでも、多くの事例を横断しながら、商業が人や街にどのような価値をもたらせるのかを考えるうえで、多くの学びと気づきを得られる一冊でした。
長年の経験や取材から得られた知見を、豊富な事例とともに共有してくださった著者に感謝したいと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
書籍情報
『街づくり×商業 リアルメリットを極める方法』
著者:松本大地
発行:学芸出版社
発行日:2024年6月
ISBN:9784761528959
書籍公式ページ:
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528959/
株式会社商い創造研究所(著者の松本大地氏が代表を務める会社):
主な参考資料
【ラゾーナ川崎】
□東芝「川崎事業所跡地の利用計画について」
□東洋経済オンライン/坪川うた氏
「『工業の街』『夜の街』だったのに、今やファミリーが集う街に!川崎が大変貌を遂げた『東口→西口』再開発の実態」
【あべのキューズモール】
□大阪市「阿倍野地区第二種市街地再開発事業の変遷(資料2)」
□公益社団法人全国市街地再開発協会「時代を画した再開発事業 阿倍野」
【キーノ和歌山】
□和歌山市「和歌山都市計画和歌山市駅前地区第一種市街地再開発事業」
□坪川うた氏(ライター・ショッピングセンター研究家)
note「ショッピングセンター偏愛記/『キーノ和歌山』は行政×民間の好事例!」






